世界の古書・日本の古書 ABAJ(日本古書籍商協会)

English

巨星墜つ

 私のボスは逝った。人間いつかはこの日を迎えるが、セビーリャのILAB会長会議から帰国後の10月中旬に面談したときは、お腹が少し膨らんでいるなと思った以外は、いつものようなエネルギッシュな動きとトークであったので逝去の報に接したときは、ほんとうなのかと我が耳を疑った。
 私は大学卒業後の1971年に、丸善にいた父八木佐吉の勧めもあって雄松堂書店に入社。新田勇次さんが会長で、私より15歳上の新田満夫社長は正にボス的存在であった。四谷で会社を再興してから11年、数年前からRare Bookを扱うようになっていた。世界中の古書店との取引、日本の大学図書館、大学図書館員、大学理事長らとの精力的な付き合い、扱い分野も学術雑誌の揃い、同業への卸し販売、マイクロフィルム製作販売・出版と多岐にわたっていた。雄松堂書店での5年間はその後の私の人生に大きな指針を与えてくれた。古書店はそれまでは店に座って営業するというスタイル。しかし、もっとビジネス的に、目録を作り、外に出て営業をするという教えを受けた。
 新田満夫さんは1964年に、村口四郎、松村龍一、酒井宇吉、纐纈宇恵雄、中尾堅一郎、中尾良男ら東京・関西の有力古書業者10名とでABAJを創始、翌年にILABに加盟するという31歳とは思われないスーパー・プレイをやってのけた。
その後のABAJ及びILABでの活躍は周知の通り。1973年9月、ILABコングレス第22回東京大会、ILAB第5回国際古書展をABAJが主催。世界より180余名が集まった。更に1990年には、ILABコングレス第30回東京大会、第13回国際古書展を開催。19か国350余名の参加、古書展にも内外180社が出展、ILAB史上にも記録に残る大会となった。
 新田さんはILAB理事、ILAB書誌学賞委員長などを歴任、ILAB名誉会員として昨年4月のILABパリ・コングレスでの発言が最後となった。
 ABAJでは昨年50周年を迎え12月に記念式典を催し、今年の3月に50周年記念国際稀覯本フェアを開催。私は会長、実行委員長としてABAJ会員・委員・理事と共に計画・実行・運営を行ったものの、その後ろ盾にボスがいたからこそこの事業が出来たと感謝している。
 新田さんは、雄松堂書店を通じて世界中の古書店との交流、日本の図書館界、研究者、大学関係者、コレクターとの交流、啓蒙、稀覯本・重要資料コレクションの移入などに大きな貢献をしたことは言うまでもないが、”Amor Librorum Nos Unit”(書物を愛する心は一つ)の標語の如くABAJ、ILABをこよなく愛し、ABAJの真のリーダーとして50年の長きに亙り先頭に立たれ、名誉会長として82歳の生涯を終えられたが、その功績は計り知れないものがある。

八木 正自 ABAJ会長


ページトップへ